株価が急落する場面を目の当たりにすると、多くの投資家は不安や恐怖を感じるものです。特に投資の初心者の方であれば「このまま下がり続けるのではないか」「資産が目減りしている」と焦りを感じ、損切りをしたくなる気持ちも理解できます。株価の急落時には、ニュースやSNSでもネガティブな情報が飛び交い、さらに不安を煽ることも少なくありません。
本記事では、株価暴落時にパニックに陥らず、むしろそれを投資チャンスとして活かす考え方をお伝えします。特に重要なのは、暴落相場においてどのような行動を取るかが、長期的な資産形成の成否を大きく左右するという点です。感情に流されず、合理的な判断ができるよう、投資を続けるべき理由を解説していきます。
1. 株価暴落とは何か?
株価暴落とは一般的に、短期間で株価が大幅に下落する現象を指します。具体的な定義は様々ですが、主要指数が20%以上下落した場合を「ベアマーケット(弱気相場)」、10%程度の下落を「調整局面」と呼ぶことが多いです。日本市場においても、バブル崩壊後の長期下落、ITバブル崩壊、リーマンショック、コロナショックなど、歴史的に見て大きな暴落は何度も発生しています。
例えば2008年のリーマンショック時には、日経平均株価は約1年間で約60%下落しました。また、2020年のコロナショック時には約30%の急落を記録しています。いずれも日本経済や世界経済に大きな影響を与えた出来事でした。
重要なのは、一時的な下落と本格的な暴落を区別することです。市場は常に上下動を繰り返していますが、一時的な下落は市場の健全な調整であることが多く、本格的な暴落は経済の構造的な問題や予期せぬショックによって引き起こされることが一般的です。経験豊富な投資家は、この違いを見極めることで冷静な判断を下すことができます。
2. 株価暴落時の一般的な投資家心理
株価暴落時には「恐怖」が投資家心理を支配します。人間の脳は損失に対して、利益の約2倍の痛みを感じるという「損失回避性」があることが行動経済学で明らかになっています。そのため、投資元本が減っていく状況は精神的に非常につらいものです。
さらに「群集心理」も働きます。周囲の投資家が売り始めると、「自分だけ取り残されるのではないか」という恐怖から、本来なら売るべきでない時にも売却してしまいがちです。このパニック売りこそが、多くの個人投資家が「高く買って安く売る」という最悪のパターンに陥る原因となっています。
例えば、コロナショック時に恐怖から全ての保有株を売却した投資家の多くは、その後の急速な回復局面で再参入できず、大きな機会損失を被りました。市場が最も恐怖に包まれている時こそ、冷静な判断が求められるのです。
感情に振り回されず投資判断をするためには、事前に投資計画を立て、暴落時の行動指針を決めておくことが大切です。暴落は必ず起きるものだと理解し、それを前提とした資産運用戦略を構築しておくことが重要です。
3. 暴落中こそ投資を続けるべき理由① ドルコスト平均法の効果
ドルコスト平均法とは、定期的に一定金額を投資することで、価格の高低に関わらず平均的な価格で投資できる手法です。この方法の大きな利点は、株価が下落している時には同じ金額でより多くの株を購入できることです。
例えば、毎月10万円を投資するとします。株価が1万円の時は10株購入でき、5,000円に下がった時は20株購入できます。結果として、株価が下がっている時には多く買い、高い時には少なく買うことになります。これにより、平均取得単価を下げることができるのです。
具体的な数値で見てみましょう。ある投資信託に毎月5万円ずつ投資し、1年目は市場が好調で基準価額が上昇、2年目は暴落して基準価額が半減したとします。
1年目(価格上昇):平均取得単価 10,000円
2年目(価格下落):平均取得単価 7,500円(多くの口数を安く購入できたため)
このように、株価暴落時も投資を続けることで、長期的に見れば有利なポジションを築くことができます。逆に、暴落時に投資を止めてしまうと、この平均取得単価を下げるチャンスを逃してしまうことになります。
4. 暴落中こそ投資を続けるべき理由② 歴史的に見た市場の回復力
株式市場の長期的な歴史を振り返ると、暴落の後には必ず回復する傾向があります。これは世界中のほとんどの株式市場に当てはまる法則です。
例えば、S&P500指数(米国の代表的な株価指数)は過去100年以上の間に数々の暴落を経験していますが、長期的には右肩上がりに成長しています。1929年の大恐慌、1987年のブラックマンデー、2000年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショック、2020年のコロナショックなど、いずれの場合も市場は回復し、最終的には暴落前の水準を超えて成長しています。
日本の日経平均株価も、バブル崩壊後の長期低迷からは脱却できていないと言われることがありますが、配当を含めたトータルリターンで見れば、長期的には十分なリターンをもたらしています。特に2008年以降は堅調な成長を続けており、2020年のコロナショックからの回復も顕著でした。
重要なのは「時間の力」です。短期的な株価変動を予測することは非常に困難ですが、長期的に見れば株式市場は概ね右肩上がりになる傾向があります。これは経済成長や企業の利益成長が背景にあるためです。暴落中も投資を続けることで、この長期的な成長の恩恵を受けることができます。
たとえば、リーマンショック(2008年)から回復するまでに約5年、コロナショック(2020年)からは約1年で回復しました。もし暴落時に投資をやめていたら、こうした回復の恩恵を受けることはできなかったでしょう。
5. 暴落中こそ投資を続けるべき理由③ 割安な株価での買い増しチャンス
株価暴落時には、本来の企業価値よりも安い価格で株を買うチャンスが生まれます。株式の適正価値は、将来の利益や配当の割引現在価値によって決まるものですが、暴落時には過度な悲観から、この適正価値を大きく下回ることがあります。
割安度を判断する指標としては、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、配当利回りなどがあります。例えば、通常時にPERが20倍前後の優良企業が、暴落時に10倍程度まで下がることがあります。これは同じ企業の株を半額で買えることを意味します。
特に、一時的な問題で株価が下がっているだけで、長期的な成長性や収益力に問題がない企業は、絶好の買い場となることが多いです。2020年のコロナショック時には、旅行・外食・エンターテイメント関連の株価が大きく下落しましたが、パンデミックが収束すれば回復するという見通しを持って投資した人々は、大きなリターンを得ることができました。
割安判断の具体的な方法としては、業界平均や過去の自社の水準と比較することが有効です。たとえば、過去5年間のPER平均が15倍の企業が現在10倍になっていれば、歴史的に見て割安である可能性が高いと言えます。もちろん、単純な数値だけでなく、企業のファンダメンタルズ(基礎的条件)や将来性も考慮する必要があります。
6. 暴落中こそ投資を続けるべき理由④ 複利効果の最大化
複利効果は長期投資において最も強力な味方です。アルベルト・アインシュタインは「複利は世界第八の不思議である」と言ったとされていますが、まさに時間をかけて投資することで、リターンの上に更にリターンが積み重なっていく効果は計り知れません。
特に株価暴落時には、この複利効果を最大化するチャンスがあります。例えば配当再投資を考えてみましょう。株価が下落すると配当利回りは上昇します。同じ配当金額でより多くの株を購入できるため、将来的なリターンが大きくなる可能性があります。
具体的な数値例で見てみましょう。
ある株式に100万円投資し、配当利回りが4%だとします。
- 通常時:4万円の配当で株を購入すると、1株1万円なら4株買えます。
- 暴落時(株価半減):4万円の配当で株を購入すると、1株5,000円なら8株買えます。
暴落時に買った8株は、相場が回復すれば2倍の価値になる可能性があります。このように、暴落時の投資は複利効果をさらに強力にする効果があるのです。
長期的に見ると、この効果は驚くほど大きくなります。年利5%で30年間投資した場合、元本は約4.3倍になります。しかし、暴落時に追加投資することで平均利回りが6%になれば、同じ30年間で元本は約5.7倍になります。わずか1%の利回り向上でも、長期では大きな差になるのです。
7. 暴落中こそ投資を続けるべき理由⑤ 心理的耐性の構築
株価暴落を経験し、それでも投資を続けることには、投資家としての成長という側面もあります。最初の暴落経験は誰もが不安を感じるものですが、それを乗り越えることで、投資家として大きく成長することができます。
暴落相場を何度か経験した投資家は、「これも一時的なものだ」と冷静に判断できるようになります。この心理的耐性は、将来の投資判断においても非常に価値のあるスキルとなります。パニックに陥らず、冷静な判断ができる投資家は、長期的に見て優れたパフォーマンスを上げる傾向があります。
また、暴落時に自分の投資哲学が試されることで、その哲学がより強固なものになります。「私はなぜこの銘柄に投資しているのか」「長期的な見通しは変わっていないのか」を改めて考えることで、投資の軸がブレにくくなるのです。
多くの成功した投資家が「最大の利益は、最も多くの人が恐怖を感じている時に得られる」と述べています。ウォーレン・バフェットの名言「他人が恐れる時に強欲になれ」もまさにこのことを表しています。暴落時に投資を続けることで、この投資の真理を体感することができるのです。
8. 暴落時に投資を続けるための具体的な戦略
では、具体的にどのように暴落時の投資を続けるべきでしょうか。以下に実践的な戦略をご紹介します。
まず重要なのは、資産配分の見直しです。株式、債券、現金等のバランスを定期的に確認し、自分のリスク許容度に合わせて調整することが大切です。たとえば、株式比率が高すぎると感じるなら、一部を債券に振り替えるなどの対応を検討しましょう。
次に、緊急資金の確保と投資資金の分離です。生活防衛資金として、最低でも3〜6ヶ月分の生活費を流動性の高い資産(現金や普通預金など)で確保しておきましょう。この資金があれば、暴落時にパニック売りする必要がなくなります。投資に回す資金は、当面使う予定のないお金に限定することが重要です。
自動積立投資の活用も効果的です。毎月一定額を自動的に投資することで、感情に左右されずドルコスト平均法を実践できます。特に暴落時には、手動で買い増しするのは心理的なハードルが高いものですが、自動積立ならば継続しやすいでしょう。
リバランスのタイミングとテクニックも重要です。例えば、株式市場が大きく下落して資産配分のバランスが崩れた場合、定期的(半年に一度など)または一定の変動幅(例:目標比率から5%以上乖離した場合)でリバランスを行うルールを決めておくと良いでしょう。こうすることで、「安く買って高く売る」という投資の基本原則を自然と実践できます。
また、投資先の分散も忘れてはなりません。個別株よりもインデックス投資を中心にする、グローバル分散を心がける、複数のアセットクラスに投資するなどの方法で、リスクを抑えながら投資を続けることができます。
9. 注意点 すべての暴落が同じではない
ここまで暴落時にも投資を続けるべき理由を説明してきましたが、すべての暴落が同じではないという点にも注意が必要です。
銘柄選択においては、ファンダメンタルズの確認が重要です。企業の財務状況、競争力、経営陣の質などを定期的にチェックしましょう。暴落時に株価が下がっても、企業の基本的な価値や成長性が損なわれていなければ、むしろ買い増しの好機と捉えることができます。
一方で、単に株価が下がっているだけで、業績も大きく悪化しているような場合は注意が必要です。例えば、技術的に陳腐化している企業や、構造的な問題を抱えている業界の企業は、株価が下がっていても「割安」とは言えない場合があります。
投資を見直すべきタイミングとしては、以下のような場合が考えられます。
- 投資先企業のビジネスモデルに根本的な変化があった場合
- 業界全体が構造的な衰退に直面している場合
- 自分の人生計画や資金需要に変化があった場合
- 投資目的や許容できるリスクレベルが変わった場合
これらの場合は、単に「暴落だから買い増す」という判断ではなく、ポートフォリオ全体を見直す必要があるかもしれません。常に冷静な判断を心がけ、必要に応じて専門家の意見を聞くことも大切です。
結論
株価暴落は誰にとっても不安を感じる出来事ですが、長期的な視点で見れば、むしろ資産形成のチャンスとなり得ます。ドルコスト平均法の効果の最大化、歴史的に見た市場の回復力、割安株の買い増しチャンス、複利効果の最大化、そして投資家としての心理的耐性の構築など、暴落中に投資を続けることには多くのメリットがあります。
重要なのは、事前に自分の投資計画を立て、暴落時の行動指針を決めておくことです。感情に流されず、長期的な視点を持ち続けることができれば、暴落相場も恐れる必要はありません。
これからの行動として、以下のことを実践してみてください。
- 緊急資金の確保と投資資金の分離
- 自動積立投資の設定
- 資産配分の定期的な見直し
- 投資対象の基礎的な情報収集
投資において最も重要なのは、マーケットのタイミングではなく、市場に投資し続ける時間の長さです。株価暴落を乗り越え、長期的な資産形成を実現するための第一歩を、今日から踏み出しましょう。